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ビルメンテナンスの提案資料|オーナー向け節水提案書の書き方

この記事で扱うのは、ビルメンテナンス会社がビルオーナーやPM(管理会社)に提出する「業務提案書」の書き方です。担当物件に対して新しい施策を提案し、発注者側の稟議を通してもらうための文書を対象にしています。
提案が通らない理由は、多くの場合、文章力ではありません。承認に必要な項目が抜けているだけです。この記事では、承認されない5つの原因、必須7項目の書き方、水道代削減を題材にした記入例、そのまま使えるテンプレートの構成までを順に整理します。

オーナーへの提案書が承認されない5つの原因

断られた提案書を並べると、理由はだいたい同じところに集まります。先に原因を押さえておくと、次章の7項目が「なぜ必要か」で理解できます。

原因1:削減分が誰の利益になるか整理されていない

コスト削減提案で最も多い空振りがこれです。水道代でいえば、共益費に定額で含まれている物件なら、使用量が減った分はオーナーの手残りになります。一方、子メーターを設置してテナントに実費精算している物件では、削減分はテナント側に戻り、オーナーの支出は1円も減りません

この場合、内容がどれだけ正しくても「うちには関係ない」で終わります。提案書を書き始める前に、賃貸借契約書の費目区分・子メーターの設置状況・テナントへの請求方式の3点を確認してください。実費精算の物件では、訴求軸を支出削減からテナント満足・クレーム減・ESG対応に切り替えます。

原因2:数値の出所と前提がない

相場値やメーカーのカタログ値だけで構成された提案書は、「その数字はうちの建物のものですか」と聞かれた瞬間に止まります。必要なのは、当該物件の実績値です。検針票や請求明細、点検記録の数値が1つも入っていない提案書は、発注者から見ると誰にでも出せる資料に見えます。

原因3:効果が「%」だけで金額になっていない

「約30%削減」は現場の言葉、「年間◯万円の削減」は経営の言葉です。決裁者が見ているのは金額と回収期間であって、削減率ではありません。%のまま出すと、受け取った側が金額に直す手間が発生し、その分だけ承認が遅れます。円/年に直したうえで提出します。

原因4:意思決定者と決裁ルートを外している

同じ提案でも、宛先が変われば刺さる言葉も、通る道筋も変わります。提案書を書く前に、誰の決裁で決まるのかを確定させてください。

提案の宛先別|決裁ルートと資料で優先すること
宛先決裁ルート主な判断基準資料で優先すること
オーナー個人・自社所有 オーナー本人または代表者が即断 手残りの増減、手間が増えないか 円/年と「決めてほしいこと」を1行で
PM会社(管理会社)経由 窓口担当者→社内決裁→オーナー承認 窓口担当者がオーナーに説明しやすいか 1枚サマリー、担当者名で出しても成立する体裁
アセットマネジャー(ファンド保有) AM担当→投資委員会 期中キャッシュフロー、NOI、売却時期との整合 前提の明示と保守ケースの併記
管理組合(区分所有) 理事会→総会決議 総会で説明できる分かりやすさ、公平性 議案文案と、そのまま総会資料に転記できる形式

管理組合が発注者となる場合は、理事会で合意できても総会の決議を経なければ実行できません。国土交通省が示すマンション標準管理規約には総会の開催手続や決議要件が定められており、令和7年10月17日改正版が最新です。提案の時期は総会の開催時期から逆算して決めます。

参照元:国土交通省公式HP(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html

原因5:予算期・稟議のタイミングに合っていない

期中で予算枠が残っていない時期に、設備を買い取る提案を出しても通りません。ここで効いてくるのが費目の違いです。設備の購入や機能向上を伴う支出は資本的支出となり、減価償却を通じて費用化されます。一方、維持管理や原状回復のための支出は修繕費として処理できます。

国税庁は判定の形式基準も示しており、一つの修理・改良等の金額が20万円未満の場合は修繕費として処理でき、また支出額が60万円未満のとき、またはその固定資産の前期末取得価額のおおむね10%相当額以下であるときも修繕費とすることができるとされています。金額の設計次第で、通すべき稟議のレベルが変わるということです。

参照元:国税庁公式HP(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm

そのうえで取れる打ち手は2つです。次期予算に載せる動きに切り替えるか、初期費用を抑えて月額の費用計上で済む契約形態に組み替えるか。後者を1案として常に持っておくと、「今期は予算がない」で終わっていた案件が動きます。

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(補足)選択肢が1案しかない/現場負荷が書かれていない

1案だけの提案書は、判断が「やるか、やらないか」の二択になります。3案あれば「どれにするか」に変わります。また、導入後に現場の手間が増える点を書いていない提案書は、導入後に必ず問題化し、施策そのものへの信頼を落とします。この2つは次章の項目6・項目7で回収します。

提案書の必須7項目と書き方

ここからが本題です。なお、提案ネタの棚卸しや効果試算の材料集めといった「情報の中身」は別記事で扱っています。この章は、その情報を「どの項目に、どの文面で落とし込むか」に絞ります。項目ごとに、悪い例と良い例を対で示します。

項目1:表題・対象範囲(物件名/対象費目/対象期間)

1行目で、どの物件の、どの費目を、いつの期間について扱う提案かを特定します。あわせて範囲外を明記すると、かえって信頼されます。

項目2:背景と課題(オーナーの言葉で書く)

業界一般論から入ると、読み手は自分の話だと思いません。当該物件で起きている事実と、ヒアリングで出てきた発言を使います。

項目3:現状数値とその出所

数値には必ず出所・期間・単位を添えます。12か月推移のグラフを1枚入れると、それだけで「調べた資料」に見えます。

項目4:提案内容(何を・どこに・どれだけ)

対象箇所と数量を具体的に書きます。製品スペックの列挙は不要で、なぜその類型を選んだのかを1行添えるほうが効きます。

装置の類型と適用箇所の考え方は、下記で整理しています。

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項目5:効果と前提(レンジ+前提3点セット)

1点の数字は疑われます。保守ケースと標準ケースの2本で出し、前提を数値の直下に書きます。前提に必ず入れるのは、①データの出所と対象期間、②削減率をどこに掛けたか、③除外条件の3点です。

なお、削減額の算定手順や投資回収期間の求め方は本記事では扱いません。計算はこちらの手順に沿ってください。

節水投資の投資対効果(ROI)と
回収期間の計算方法はこちら

項目6:費用と契約形態(買取/レンタル/段階導入)

費用は総額だけでなく、オーナーの現金支出がいつ、いくら発生するかと、会計処理がどうなるかまで書きます。原因5で触れたとおり、ここで稟議の重さが決まります。

提案書に併記する3案の型
A案:買取導入B案:レンタル・費用計上型C案:段階導入(パイロット)
内容設備を購入して全面導入初期費用を抑え、月額で導入1フロアまたは1棟で先行実施
初期費用◯◯円◯◯円(または0円)◯◯円
月額費用◯◯円◯◯円
会計処理の目安資本的支出となる場合がある月額の費用計上で済む場合がある金額規模により修繕費の範囲に収まる場合がある
向いている場面予算が確保済み/長期保有物件期中で予算枠がない/稟議を軽くしたい判断材料が足りない/複数物件を保有

会計処理の欄は断定せず、「◯◯となる場合があります。処理方法は貴社の会計方針をご確認ください」と添えます。あわせて、補助金の対象になり得るかを1行入れておくと検討が進みます。

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項目7:スケジュール・体制・リスク対応

稟議で止まる理由の多くは、効果の大小ではなく「止まるのか」「戻せるのか」が書かれていないことです。次の5点を明記します。

導入後の点検を誰が、どの頻度で担うかもここに書きます。自社の巡回手順に組み込めることを示せると、提案の実現可能性が一段上がります。

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【完成版】水道代削減の提案書 記入例

7項目を実際の提案書に落とすと、どうなるか。架空のモデル物件(オフィスビル/延床3,000㎡/テナント8社/築18年)を使い、6枚構成で示します。数値はすべて前提付きの例示であり、実在する物件の実績ではありません。装置も製品名ではなく「共用部の蛇口取付型・レンタル」という類型で記述します。

1枚目:サマリー(結論・投資額・効果レンジ・意思決定事項)

1枚目で結論が伝わらない提案書は、2枚目以降を読まれません。次の4行を冒頭に固定します。

最後の1行が最も重要です。何を決めてほしいのかを書いていない提案書は、検討中のまま止まります。

2枚目:現状(検針票12か月の推移と費目内訳)

グラフ1枚と、その下に前提を全部書きます。

㎡あたりに正規化しておくと、オーナーが複数物件を持っている場合に「この建物は高いのか安いのか」を判断できます。推計が混じる箇所は、推計であることを書いたうえで残します

3枚目:提案(対象箇所と施策・数量)

対象を共用部に限定していることを明記すると、テナントとの調整が不要であることが同時に伝わります。専用部まで含めると告知・立ち入り・日程調整が発生し、決裁の難易度が一段上がります。

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4枚目:効果と前提(レンジ表記の書き方)

次の形で、数値と前提を同じ枠内に置きます。

削減率のレンジは、使用状況によって幅が出るという事実をそのまま書いたものです。上限値だけを書くより、下限値を自分から書くほうが数値の信頼度は上がります

5枚目:費用と契約形態(3案比較表)

項目6で示した3列の比較表をそのまま貼り、モデル物件では次のように補足します。A案(買取)は資本的支出として扱われる可能性があり、長期保有が確定している物件向け。B案(レンタル)は期中でも判断しやすく、撤退も選択肢に残ります。C案は2階〜4階の6台のみ先行導入し、3か月の検証後に全館展開を判断する形です。

そのうえで推奨案を明示します。「B案を推奨します。理由は、今期の予算枠に影響せず、効果検証後に契約を見直せるためです」と1行添えるだけで、比較表が判断材料に変わります。

6枚目:スケジュール・体制・リスク

記入例に添えた「前提の書き方」だけは真似してほしい

この記入例で再利用してほしいのは、数値ではなく前提の書式です。水道料金の単価も使用実態も物件ごとに違うため、86,000円という金額をそのまま別の物件に転記すると、根拠を聞かれた時点で崩れます。

逆に、「出所=/対象=/削減率=/除外=」という前提の並べ方は、どの物件でも、どの施策でも使えます。コピーすべきは数字ではなく書式です。

そのまま使える提案書テンプレート(無料)

テンプレートの構成と使い方(項目・記入ガイド付き)

前章の7項目に対応した空欄フォーマットをご用意しています。PowerPoint版(提案用6枚)とWord版(稟議添付用)の2種類で、各項目に「ここに何を書くか」の記入ガイド文が入っています。ガイド文は記入後に削除してご利用ください。

  1. 表題・対象範囲(物件名/対象費目/対象期間/対象外)
  2. 背景と課題(ヒアリングでの発言を引用する欄)
  3. 現状数値とその出所(12か月推移グラフ枠+出所記入欄)
  4. 提案内容(対象箇所・数量・選定理由の3欄)
  5. 効果と前提(保守/標準の2ケース+前提3点セット)
  6. 費用と契約形態(3案比較表)
  7. スケジュール・体制・リスク(工程表+5項目チェック)

差し替えが必要な箇所(自社の実績・体制・単価・対象物件)

テンプレートのまま提出できる部分と、必ず自社の情報に差し替える部分があります。後者は次の4つです。

テンプレートを水道代以外の提案に流用する

7項目の構成は水道代専用ではありません。共用部のLED改修、空調の運転スケジュール見直し、事後保全から予防保全への移行、人的警備の一部機械警備化なども、同じ枠に入ります。

差し替えるのは項目3(現状数値の種類)と項目4(対象箇所と数量)だけです。LED改修なら現状数値は電気の請求明細と器具台帳、予防保全なら点検記録の振動値・温度のトレンドに置き換わります。1本作れば、提案ネタの数だけ横展開できます。

提案書を出したあとにやること

先回りFAQを添付する(水圧・衛生・故障・原状回復)

提出後に質問が出てから回答すると、そのたびに検討が止まります。想定質問と回答を1枚にまとめ、提案書に添付してください。節水装置の場合、実際に聞かれるのは次の4点にほぼ集約されます。

それぞれの論点は下記で詳しく扱っています。回答欄を作る際の材料としてご確認ください。

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効果検証の前提を提出前に合意しておく

導入後に最も揉めるのが、効果の測り方です。前年同月比で見るのか、稼働率で補正するのか、テナントの入退去があった場合はどう扱うのか。これを決めずに導入すると、削減できていても「効果が出ていない」と評価されることがあります。

提案書の段階で、比較方法・判定時期・判定に使う資料の3点を書いて合意しておきます。効果が出なかった場合の措置まで書いてあれば、発注者側のリスクが下がり、承認されやすくなります。

断られた理由を分類して再提案の時期を決める

断られた提案は、理由を4分類して記録します。分類ごとに、次にやることが変わります。

断られた理由の分類と次の打ち手
分類断られ方の例次の打ち手再提案の時期
予算タイミング「今期は枠がない」費用計上型(B案)に組み替える/次期予算に載せる予算編成時期の2〜3か月前
決裁者「上に聞いてみないと」決裁者向けの1枚サマリーを追加提供する2週間以内
効果の信頼性「本当にその効果が出るのか」パイロット導入(C案)に切り替える即時
現場負荷「手間が増えるのでは」点検手順を明記した体制図を追加する1か月以内

分類しておくと、断られた案件が「失注」ではなく時期待ちの案件リストになります。予算タイミングで断られた案件は、翌期の予算編成前に出し直すだけで通ることがあります。

まとめ|提案書は「前提」と「選択肢」で承認率が変わる

承認される提案書とされない提案書の差は、文章の巧拙ではありません。数値に前提が書いてあるか、そして選択肢が用意されているかの2点です。前提を書けば数値の信頼度が上がり、選択肢を出せば判断が「やるか、やらないか」から「どれにするか」に変わります。

まずは担当物件を1つ選び、7項目の空欄を埋めるところから始めてください。とくに水道代の削減は、共用部に限定すればテナント調整が不要で、契約形態によっては稟議も軽く済むため、最初の1本として提案しやすいテーマです。

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